酔っぱらいの女たち。青森県むつ市の居酒屋にて【日本一周者並の感想】

どうして酔っぱらいの女たちに囲まれて茶を啜らねばならぬのか。

両隣に並ぶ女たちが騒ぎ立てるこの辺鄙な土地では、あの輝かしき北の大地に降り立っているであろう明日の自分など、到底、想像できるものではなかった。

八戸を出てなお北上すると、まるで日本と思えぬ景色が続いた挙句に、この本州最後の市に辿り着く。

この区間では擦れ違うバイクと頻繁に挨拶(ヤエー)した。

途中寄ったコンビニで出くわしたライダーは北海道帰りで、おれはこれから北海道に行く。

このように北海道に身も心も取り付かれたバカばかり走っているのがこの地域の特徴である。

挨拶の多さにも納得がいく。

むつ市の宿に入ってすぐ、女将には「この町に何か名物があるか」と尋ねた。

それでお節介焼きな女将がおれをわざわざ車に乗せてまで連れてきたのがこの居酒屋だった。

初め、店は静かで、左にいる夫婦や店主がおれの狐面を見ては「こんな奴がいるのか」と呆れていた。

おれは何時でもどこへ行くにも、狐面を着けて行動し、それでいて職務質問など受けたことがないから自信満々だった。

何を身に付けていようが、まともな人相であればこそ、人から怪しまれることも疑われることもないのである。

そう思った矢先の出来事である。

おれより少し年上と見える女たちがお祭りのような声を上げながらどやどやと酒場に雪崩れ込んできた。

そのうちの一人が幼い子供を連れていたのが、おれには運の尽きだった。

びくびくしていた小人は狐面を見るなり、怖いといって泣き出した。

おまけに、母親がどんなになだめても頑固一徹泣き続けて、皆すっかり困惑した。

子供と云うのは敏感だ、おれのような不審者を見抜くのも実に素早い。

結局店主が機転を利かせて、狐面は店の倉庫にまで仕舞われてしまった。

この一連の騒動がきっかけで、女たちに混じって話をすることになった。

おれとしては、相手が女だからただでさえ話すことが無いうえに、彼女たちは酔っぱらっている。

普通に女と話すだけでも持て余すのに、しかも酒が入って、それが大人数ときたから、もう眩暈(めまい)がして押し黙っていた。

どれほど一緒にいたか分からないが、ついに女たちが席を立って、出て行った。

去り際にお祭り女たちが「一緒に二軒目行こう!」と言ったのを、おれは「構わないでくれ」と断った。

しかし騒がしかった酒場が急に静まり、夜も更けて、何だか寂しい思いをした。

かと言って、宿に孤面を置いてから再び二軒目へ会いに行ったのは、飛んで火に入るなんとかだった。

おれは酒を飲まないから茶でも啜って、一方ますます酔った女たちは色々からかってくる。

どうしようもないから、さっき狐に泣かされた子をずっとあやして遊んでいた。

ここに来る途中でコンビニに入って、菓子をたっぷり買い込んでおいたから、おれは難なくご機嫌を取ってやった。

それを見ていた母親が「あなたはきっといいお父さんになるよ」と言っていた。

おれはそんなつまらないモノにはならないと思ったが、文句を言うはずもないから黙っていた。

最後に、誰かがケーキを出したから、さすがにおれも喜んで頂いた。

これだけでも行った甲斐はあった。

それに、結果から言えば、寂しい思いをせずに済んだ。

それにしても、女は酔っぱらっていたが、我が子を見つめる母親の眼はこの世に無二の優しい眼だった。

自分も気付かぬうちにこのような眼に見守られて、ここまで来たのだろうか。

当たり前のことかもしれないが、生きて帰ろうと思った。

礼を言って彼女たちと別れ、夏の北海道に思いを馳せながら本州最後の夜を過ごした。

夜の街へと消えゆく女たち

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