継続は力であり、誇りだ。好きなことさえ、続けるのは難しい【日本一周者並の感想】

岩手の奥州に「ばるかん」と云うライダーハウスがあり、訪ねてみると無垢の少女が受け付けに出るから面喰った。

主人を出せと催促すると少女は、この番号に電話をかけよと言うものの、かけても一向に繋がらない。

「じいじ」は今留守だというから、少女の指示通りリストに名を記して積み荷を降ろした。

これが「じいじ」だと少女が指差した写真には、アメリカかぶれの成れの果てというようなおっさんが写っていた。

継続という難関、継続という価値、継続する人たち

宿には先客が二人あって、一人は底抜けにお人好しの30代で、もう一方はモトグッチ乗りの謙虚で如才無きおっさんだった。

穏やかな人に囲まれ、全く居たたまれない。

これほど淑やかな日々をライダーハウスで過ごしたことは他にない。

だが図らずも、安静にしたため身体が休まった。

モトグッチのおっさんは近隣の小さなスーパーマーケットで貝類など買ってくると自分でそれを捌いて、一緒に焼いて食おうと言ってくれた。

連日の嵐がために人の入れ替わりはなく、三、四日ほどモトグッチさんと人吉(人好し)さんと三人で過ごした。

グッチさんが仕入れた牡蠣や牛肉を焼いて午餐等すると種々の会話が飛び交う。

40年間バイクで走り続けるグッチさんが「過去にライダーの友人は沢山いたが、あの頃から今日まで乗り続けている友人は少ない。バイクに乗るのは簡単で楽しいが、乗り続けるのは難しく苦労も多い」と言った。

的を射ている。

何事も、続けるのは難しい。

好きな事であれ、長く続けることは時に苦痛を伴い、はだかる困難に挫かれることもある。

ここに本当の情熱が試される。

そして人は十中八九、好きな事をも嫌になる。

夢見る子供は好きな事を仕事にすれば永遠に幸せだと考える。

子供の時はそれでいい。

だが成長と共に理解すべきは、「好きな事を仕事にする」とは、好きな事で苦しむことに他ならぬと云う事実である。

好きなことでさえ、続けるとなれば苦しく、難しい。

グッチさんは一足早く宿を去り、人吉さんと二人になった。

おれがずっとピアノを弾いて騒々しい間、人吉さんは日がな一日小さく静かに漫画を読んでいて、この人は漫画を読むにも全くのお人好しだ。

互いに出発を翌日に控えた夜、思い切って少々立ち入った話をしたら、人吉さんは仕事を辞めて再就職するまでの猶予期間で今、日本一周していると分かった。

実は先のグッチさんもまた、仕事を辞めて今無職状態だと話していた。

そしてこれ以降に出会う人々も、そのほぼ総てが仕事を辞めてきた無職の人間たちだ。

傍目には優秀と見られる大学の連中でさえ、一年とかけずに辞職して次の職探しに奔走する者も多い。

これに分かる通り、一つの仕事を続けるのもまた非常な難行である。

創業は易く守成は難しと言う。

始めるのは容易だが続けるのは難しい、くらいの意味を持つ。

現実には物事を始める時、勇気や初期投資を要するから、始めるのも難しい。

だが続けることの難しさはそれを遥かに凌ぐ。

店は赤字が出れば、続けたくても続けられなくなる。

しかし人の努力は違う。

技術習得や学問の継続に求められるのは根気だ。

金銭的理由で蹉跌をきたすことはほぼない。

にも拘らず、誰もが努力の効果を見届けないうちに飽き、迷い、挫折する。

人々は、続けられないのだ。

であれば、一事を継続できるのは、稀有な才能に相違ない。

趣味であれ仕事であれ、続けられることが誇りである。

おれは今バイクに跨って1、2年で、バイクが好きだと言ってるが、バイクに乗り続けることの難しさに未だ直面していない。

だがグッチさんや、このばるかんの「じいじ」は、数多の難題を乗り越えて何十年とバイクに乗り続けてる。

おれにはそれが出来るか知れない。

写真を見た時「じいじ」をアメリカかぶれの成れの果てなどと見逸れたが、それは酷い思い違いで、本当にはバイク乗りの師表だと思った。

大学を出て一企業に勤め上げてこれ即ち一流であるという肉親の刷り込みに反発し、そのような退屈な人間にはならないと言った。

実はそれも思い上がりで、ならないのでなく、なれないと思った。

自分に継続できることは何か、との問いに、数年前から首を鷲掴みされている。

もっと早く始めていればと、悔やみ切れないことはあまりに多過ぎる。

ただし後悔に稔る果実は無い。

悔いるよりも「今何を始めるのか」「どこまで続けられるのか」これだけが恒久的な課題であると自覚せねばなるまい。

人吉さんが「前職に未来は無かった。続けることで自らの力となる仕事をする必要がある」と語った。

この人をただのお人好しと見くびってはいられなくなった。

ピアノで千本桜を弾いた時、まだ幼いばるかんの看板娘が食い入るようにこちらを見た。

少女は、ピアノを独学で練習しているが中々思うように弾けない、私も弾けるようになるかな、と健気なことを言った。

そこで以下のように励ました。

おれも独学だが、毎日15分でも練習すればこんな曲はすぐに弾けるようになる、今から始めれば君はおれよりずっと上手くなる、最初は弾けないが諦めずに続けることが肝心だ。

おれは今この言葉を、真摯に、自分に言い聞かせている。

グッチさんと人吉さんと、ばるかんの「じいじ」。

継続する人たちとの出会いに感謝した。

少女の健闘を祈りながら奥州のばるかんを発ち、次なる目的地、釜石の先にある「ライダーハウスあかぶ」へと走った。

ばるかんの少女

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